長崎スタジアムシティの温浴施設「ONSEN&SAUNA YUKULU」には、長崎市では珍しいアウフグースがある。
熱を送り、風を届け、香りを楽しむ。
そんな癒しを提供するのは、YUKULUの正社員アウフギーサー、筒井楽斗23歳だ。
2年前まで初心者だった彼だが、アウフグースの大会では九州制覇を果たした実力者。
サウナ好きが集まる口コミサイトでも人気を博し、今やYUKULUに欠かせない存在となっている。
「最初は何となく始めた」と語る彼が、ここで働くわけとは。
アウフグース、ひいては筒井楽斗の魅力に迫っていく。
YUKULUにつくと、笑顔で出迎えてくれた好青年。
彼こそまさに、リピーターがつくほど人気の「アウフギーサー」だ。
早速だが、アウフグースとは?本題に入る前に簡単に説明をしてもらった。
「アウフグースは、サウナの中で生まれた蒸気と香りをタオルで仰ぎ、その風を全身に届ける体験。ただ汗をかくだけではなく、まるでライブみたいに熱・香り・リズムを味わう、五感で楽しめるエンタメです。YUKULUでは音楽や照明の演出も加わり、一度体験するとハマる人が多いです」
つまり、筒井さんは熱波師ですか?と大雑把な質問をすると、いわゆる「熱波師」とは少し異なるという。
簡単に言うと、技やパフォーマンスを重視するのがアウフギーサー、情熱的な熱風を重視するのが熱波師ということらしい。アウフギーサーならではの特徴は、タオルを華麗に回すテクニックや、アロマの香り、音楽、照明などを組み合わせた「ショー」としてのエンタメ要素を重視しているところだ。
実際にアウフグースを行うサウナ室も見せていただき、なんだかクラブみたいですごいな、と感心。
遅ればせながらご挨拶をすると、
「エンジェル筒井です」
聞き返さずにはいられない挨拶が返ってきた。
エンジェル筒井とは一体……その名前の由来を聞く。
「YUKULU開業前に、埼玉県の”おふろカフェutatane”という施設で研修がありました。で、自己紹介の時に講師の人が『ワールド酒井』と名乗っていたんです。僕は当時アウフグース初心者だったし、そういうニックネームはなかったんですけど、咄嗟に『エンジェル筒井です』と名乗ってからは、エンジェル筒井です」
咄嗟にエンジェル……?
淡々と話す筒井さん、いやエンジェル筒井は自分のことを天使だと思っているのか。不思議に思い理由を尋ねると、
「アウフグースの基礎技の中で一番難しいと思っていた技が”エンジェル”というものだったんです。それに、一番かっこいいと思っていた技だったので、そこから取ってエンジェルにしようって」
アウフグ―スの基礎技「エンジェル」(タオルが天使の羽に見えることから)
エンジェル筒井、その名前は向上心の表れだった。
今では、お客さんからも「エンジェルさん」と呼ばれる定着ぶりだ。
常連のお客さんと話すエンジェル筒井
リピーターがつくほど人気のエンジェルだが、YUKULUで働くまでは全くの素人。
2024年、スタジアムシティ開業に伴い募集していた採用試験を受け、まだ形もなかった温浴施設「YUKULU」に契約社員として配属された。
「はじめは、サッカー好きだし、なんとなくスタジアムシティで働けたらいいなって感じで。でもYUKULUで働き始めてから、研修の場でアウフグースに出会ったんです。講師の人がクルクルクル!ってタオルを回したり、お客さんに熱を届けたり。それを見ておもしろ!ってなってからは、自分もやりたい!って」
とはいえ、始めてからはたったの2年。
この短期間で人気アウフギーサーとなった理由の一つに、先輩アウフギーサーの存在があった。
熊本の温浴施設からやってきた、ソエダさん。(ソエダさんには”楽”というシンプルなニックネームがある)
右:ソエダさん(楽)
ソエダさんがきてからというもの、エンジェルはますますアウフグースにハマっていった。
「先輩に教えてもらう中で、それまで意識していなかった蒸気のまわり方とか、香りの組み合わせとか、きちんとした理論がついて。より本格的にできるようになってからは、本当に面白い」
アウフグ―スの練習をするエンジェル筒井とソエダさん
契約社員として入ったエンジェルは1年半後、正社員になった。アウフグースに向き合う誠実な姿勢はもちろん、普段の丁寧な業務も評価され、「正社員アウフギーサー」として、YUKULUに欠かせない存在だ。
アウフグースはおろか、サウナすらまともな体験がない筆者。
アウフグースに上手下手とかあるんですか?タオルで仰ぐだけですよね…
なんとも失礼だと思いつつ、聞いてみた。
「上手なアウフギーサーは、熱の流れと、お客さんをしっかり見ているんです。サウナ室の熱を均一にできるのがいいアウフグース。酸素は?熱は?匂いは?どこに回っているのか。サウナが好きな人なのか、苦手な人なのか。表情を見ながら、相手に合わせて仰ぐ比率も変えていきます」
実際に目に見えなくとも、熱がどうなっているのかは感覚でわかるという。仰いでいるときに自然と拍手が起こったり、技が決まった時に拍手をもらえるのが嬉しいと語る。
エンジェルと楽。
二人三脚で歩む二人は、アウフグースの大会「ACJ2026」に、団体戦で出場している。
ACJ(AUFGUSS CHAMPIONSHIP JAPAN)とは、日本最高峰の「ショーアウフグース」選手権。音楽、照明、香り、タオル技術などを評価対象に、15分間のストーリー性ある演出で、技術と魅力を競う。
動画審査、地方予選、日本選手権、それらを勝ち抜けば、世界大会への出場権を獲得できる。
「ズバリ目標は?」
側にいたスタッフの「世界!」という無邪気な回答に苦笑しつつも、「まずは九州で優勝したい」と、あくまでも強気な姿勢を見せたエンジェル。
取材から数日後、九州予選で優勝し、有言実行を果たした。
ACJ2026九州予選での演技の様子
なんとなくはじめたアウフグースの、何がここまでエンジェルを動かしているのか。
「うーん、自分が上手くなっていくのが好きなんでしょうね。それが一番面白い。それでお客さんが喜んでくれるのも、楽しい」
シンプルだが、力強い答えが返ってきた。
長崎の天使が世界へ羽ばたく日も、そう遠くはないかもしれない。